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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2177号 判決

控訴人(反訴原告) 鈴木なを

被控訴人(反訴被告) 丸井商事株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

控訴人の当審におけるあらたな反訴を東京地方裁判所へ移送する。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し原判決添付別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を明渡し、かつ昭和四一年八月二九日から右明渡ずみまで一月金一万七〇〇〇円の金員を支払うべし。訴訟費用は本訴及び反訴を通じ第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び建物明渡ならびに金員支払部分について仮執行の宣言を求め、当審におけるあらたな反訴請求として「本件建物について被控訴人が島田藤左衛門に対する賃借権を有しないことを確認する。反訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、控訴人の当審におけるあらたな反訴提起には異議がある、仮りに当審での反訴が許されるとしても占有保全の本訴に対し、本権を内容とする反訴は許されない、仮りに許されるとしても訴訟の完結を遅らせるものであるから異議がある。仮りに許されるとすれば控訴人の当審におけるあらたな反訴請求を棄却するとの判決を求めると述べた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は当審においてあらたに反訴請求原因として被控訴人は本件建物に関する賃借権を有限会社サニーから譲受けたと称しているが、賃借権の譲渡については賃貸人島田の承諾を得ていない。一方控訴人は玉利行也から右島田の承諾を得て右賃借権の譲渡を受けている。従つて被控訴人は本件建物について賃借権を有しないのであるから、その旨の確認を求め、かつ控訴人は被控訴人に対し右賃借権に基づいて本件建物の明渡を求める。と述べ、

被控訴代理人は、本案の答弁として、控訴人の右主張事実はすべて否認する。と述べた。

証拠〈省略〉

理由

当裁判所は当審における弁論及び証拠調の結果を斟酌しさらに審究した結果、被控訴人の本訴請求を正当として認容し、控訴人の反訴請求(当審における分を除く)を失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由中の説示と同一であるからこれを引用する(但し、原判決五枚目裏七行目の「同玉利行也(後記措信しない部分を除く)」の次に「当審証人高見沢弘一」と、同九行目の「本件建物を賃貸して使用させていた」の次に「(この点当事者間に争いがない)」とそれぞれ加入し、同七枚目表一行目から二行目にかけて「証人玉利行也の証言により真正に成立したと認める乙第一ないし第四号証」とあるのを「訂正箇所と訂正文言を除くその余の部分は当事者間に争いなく、訂正箇所と訂正文言の部分は原審証人玉利行也の証言により真正に成立したものと認める乙第一号証、右証言により真正に成立したものと認める乙第二ないし第四号証」と、裏四行目の「自乙」とあるのを「自己」とそれぞれ訂正する)。

次に控訴審における控訴人のあたらしい反訴の提起について考察する。控訴審における反訴の提起には相手方の同意を必要とするところ、右は控訴審における反訴提起の要件であるから、これを欠く反訴は不適法として却下すべきであるとする見解もあろうけれども、当裁判所は訴訟経済上これを別訴として有効に取扱い、管轄第一審裁判所へ移送すべきものと考える。もつとも控訴人の当審におけるあたらしい反訴はいつたん原審で提起されたが、被控訴人の同意をえて取下げたものと同一であることは記録上明らかであるが、このこと自体は再び反訴を提起することを妨げるものではないし、すでに本案と分離して移送すべきものである以上、占有保全の本訴に対し本権を内容とする反訴であつても、そのことの当否は関係ないこととなり、また訴訟の完結を遅らせるかどうかは従前の本件本訴及び反訴にはかかわりないこととなるから、これらの点についての被控訴人の異議については判断しない。なお本件反訴状(昭和四五年二月一九日付準備書面)には法定の印紙の貼用がなく、請求の趣旨原因の記載その他についても不備があるが、これは移送後の第一審裁判所において追貼その他の補正をさせるのが相当であるから、当裁判所においてはこれを命じない。

よつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、控訴人の当審における反訴を東京地方裁判所へ移送することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 田畑常彦 大和勇美)

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